PR

ゼロ・グラビティは科学的におかしい?ありえないシーン7選と実際の宇宙との違い

ゼロ・グラビティは科学的におかしい?ありえないシーン7選と実際の宇宙との違い
ゼロ・グラビティは科学的におかしい?ありえないシーン7選と実際の宇宙との違い
洋画

映画『ゼロ・グラビティ』を見て、「ハッブル宇宙望遠鏡からISSまで本当に飛んでいけるの?」「人工衛星の破片が90分ごとに襲ってくることはある?」と気になった人も多いのではないでしょうか。映像が非常にリアルなだけに、どこまでが科学的に正しく、どこからが映画上の演出なのか判断しにくい作品です。

結論からいうと、『ゼロ・グラビティ』には科学的におかしい、現実にはほぼありえないシーンがいくつかあります。ただし、無重力状態での物体の動きや宇宙空間の静けさなど、かなり正確に描かれている部分もあります。この記事では、特に疑問を持たれやすい場面を実際の宇宙物理と比較しながら整理します。なお、物語の重要な展開に触れるためネタバレを含みます。

  1. ゼロ・グラビティは科学的におかしい?最大の問題は「宇宙での移動距離」
  2. ありえないシーン1:ハッブル宇宙望遠鏡からISSへ簡単には移動できない
    1. 高度だけでなく「軌道面」が違う
    2. 見えているISSへ向かって噴射しても到着できるとは限らない
    3. コワルスキーの推進装置では能力が足りない
  3. ありえないシーン2:宇宙ごみが90分ごとに襲ってくる展開
    1. 宇宙ごみが秒速数kmで飛んでいるのは本当
    2. 約90分で地球を1周するのも正しい
    3. 同じ破片群と毎周回遭遇するとは限らない
    4. ケスラーシンドローム自体は現実に考えられている
  4. ありえないシーン3:コワルスキーは本当に手を離す必要があったのか
    1. 完全に止まっていたなら、急に遠ざかる力はない
    2. ただし「完全な間違い」と断定できない理由もある
  5. ありえないシーン4:消火器をジェット噴射に使うことはできる?
    1. 前に進む原理そのものは正しい
    2. 難しいのは「進むこと」ではなく「狙った場所に着くこと」
  6. 涙や髪、宇宙服にも科学的におかしいところがある
    1. 涙はすぐに顔から離れて飛んでいかない
    2. ストーンの髪はもう少し浮いてもおかしくない
    3. 宇宙服を脱いだ直後の服装は現実と違う
  7. 逆に『ゼロ・グラビティ』が科学的にかなり正しいシーンもある
    1. 宇宙空間で爆発音や衝突音が鳴り響かない
    2. 高速で漂い始めると簡単には止まれない
    3. タイトルの「ゼロ・グラビティ」は厳密には無重力ではない
    4. ハッブルをスペースシャトルで修理する設定そのものは現実的
  8. なぜ科学的におかしいのに『ゼロ・グラビティ』はリアルに感じるのか
  9. ゼロ・グラビティのありえないシーンをまとめると、軌道移動が最大のフィクション

ゼロ・グラビティは科学的におかしい?最大の問題は「宇宙での移動距離」

『ゼロ・グラビティ』は、宇宙を舞台にした映画として非常にリアルに見えます。しかし、すべてが現実の物理法則や宇宙開発の運用に忠実というわけではありません。

科学的に最も大きな無理があるのは、ハッブル宇宙望遠鏡、国際宇宙ステーション(ISS)、中国の天宮1号の間を次々と移動する設定です。宇宙では、目的地が目で見えるほど近くにあったとしても、そこへ真っすぐ飛んでいけば到着できるとは限りません。

映画のシーン 科学的な見方
ハッブルからISSへ移動する 現実の軌道が大きく異なるため、映画の装備ではほぼ不可能
宇宙ごみが約90分後に再び襲来する 約90分という周回時間自体は現実的だが、同じように再遭遇する展開は不自然
宇宙ごみが連鎖的に衛星を破壊する ケスラーシンドロームという現実の懸念はあるが、映画ほど短時間には進みにくい
コワルスキーが手を離すと遠ざかる 条件次第で評価が分かれる。単純に「完全な間違い」とは言い切れない
消火器で宇宙を移動する 推進する原理は正しいが、映画のような精密な操縦は極めて難しい
涙が顔から離れて浮かぶ 実際は表面張力で目や顔にまとわりつきやすい
宇宙空間の衝突音がほとんど聞こえない これはむしろ科学的に正しい
アルフォンソ・キュアロン監督自身も、物語を成立させるために実際とは異なる軌道設定を採用したことを認めています。つまり、知らずに間違えたというより、ストーリーを成立させるための意図的な変更と見るのが適切です。

そのため、この映画は「科学的にデタラメな作品」と評価するより、細部の宇宙環境はリアルに描きつつ、ストーリーの骨格となる軌道力学では大胆な省略をしている映画と考えると実態に近いでしょう。

ありえないシーン1:ハッブル宇宙望遠鏡からISSへ簡単には移動できない

映画前半で最も大きな科学的問題となるのが、ライアン・ストーンとマット・コワルスキーがハッブル宇宙望遠鏡付近からISSを目指す展開です。地上の感覚では「近くに見える場所まで飛んでいく」だけに思えますが、宇宙では事情がまったく違います。

高度だけでなく「軌道面」が違う

人工衛星や宇宙ステーションは、地球の周囲をそれぞれ決められた軌道で飛んでいます。重要なのは高度だけではありません。地球の赤道に対して軌道がどれだけ傾いているかを示す「軌道傾斜角」も大きな意味を持ちます。

ハッブル宇宙望遠鏡の軌道傾斜角は約28.5度です。一方、ISSは約51.6度です。映画公開前後の高度で比較すると、ハッブルはおよそ560km付近、ISSはおよそ400km付近を周回していました。

つまり、単純に100km少々「下へ降りる」だけではありません。地球を囲む別々に傾いた巨大な輪の上を、それぞれ秒速約7~8kmで走っているような状態です。

宇宙では「距離が近いこと」と「簡単に行けること」は別問題です。軌道の向きや速度が違えば、その差を打ち消すために大量の推進剤が必要になります。

見えているISSへ向かって噴射しても到着できるとは限らない

地上なら、目的地を見つけてその方向へ進めば近づいていきます。しかし軌道上の物体は、地球へ落下し続けながら横方向へ高速移動することで地球を回っています。

そのため推進装置を噴射すると、単に「その方向へ進む」だけでなく、自分が乗っている軌道そのものが変化します。たとえば進行方向へ加速すると軌道の反対側では高度が上がり、軌道周期も変わります。宇宙船同士のランデブーでは、この性質を計算して何度も軌道修正を行います。

映画のようにISSを目視し、「あそこへ行こう」と小型推進装置だけで向かうのは、自動車で隣の建物へ移動するような話ではありません。

コワルスキーの推進装置では能力が足りない

映画でコワルスキーが使用しているものを連想させる装置として、NASAにはMMU(Manned Maneuvering Unit)という実在の有人機動ユニットがありました。窒素ガスを噴射し、宇宙飛行士が船外で自由に移動するための装置です。

ただしMMUが実際に使用されたのは1984年で、その後は運用されていません。現在の船外活動では、宇宙飛行士がISSから離れてしまった場合の緊急帰還用としてSAFERという小型装置が使われています。

これらは近距離での姿勢制御や緊急移動を目的としたもので、軌道の大きく異なるハッブルとISSを結ぶ宇宙船の代わりにはなりません。

「ハッブルが見える距離にISSがある」という映画上の配置そのものが、ストーリーを成立させるためのフィクションです。

ありえないシーン2:宇宙ごみが90分ごとに襲ってくる展開

『ゼロ・グラビティ』の恐怖を生み出しているのが、人工衛星の破壊によって発生した大量の宇宙ごみです。宇宙ごみそのものは現実に深刻な問題であり、高速の破片が宇宙船を損傷する可能性も実際にあります。ただし、その動き方には映画的な誇張があります。

宇宙ごみが秒速数kmで飛んでいるのは本当

低軌道を飛ぶ人工衛星や宇宙ごみは、おおむね秒速7~8kmという非常に高速な状態で地球を周回しています。NASAによれば、低軌道で宇宙ごみと別の宇宙物体が衝突するときの平均的な相対速度は約10km毎秒にもなります。

この速度では、小さな破片でも大きなエネルギーを持ちます。ISSには微小隕石や宇宙ごみに対する防護構造がありますが、すべての大きさの破片に耐えられるわけではありません。危険な物体が接近すると予測されれば、事前に軌道を変更して避ける場合もあります。

したがって、「宇宙ごみが宇宙船を破壊する」という映画の基本設定自体は、完全な作り話ではありません。

約90分で地球を1周するのも正しい

映画では宇宙ごみが約90分で再び戻ってくると警告されます。この「90分」という数字だけなら、かなり現実に近いものです。

ISSは地球をおよそ90分で1周します。低軌道にある物体は同程度の時間で地球を周回するため、「宇宙の物体が90分程度で一周する」という説明には科学的な根拠があります。

問題は、90分後に同じ破片群が同じような位置関係で再び登場し、しかもハッブル、ISS、天宮1号を順番に襲うように描かれている点です。

同じ破片群と毎周回遭遇するとは限らない

宇宙ごみも宇宙船も地球を周回しています。同じような軌道を同じ方向へ飛んでいるなら、破片だけが毎回後ろから追いついてくるわけではありません。逆に軌道や速度が大きく違えば、両者が再び交差する時間は単純な90分では決まりません。

特に映画では、そもそも軌道面が違うハッブル、ISS、天宮1号の近くへ同じ災害が短時間で波及します。現実の軌道力学をそのまま適用すると、かなり成立しにくい展開です。

ケスラーシンドローム自体は現実に考えられている

人工衛星が衝突して破片を生み、その破片が別の人工衛星と衝突してさらに破片が増える現象は「ケスラーシンドローム」または衝突カスケードと呼ばれます。NASAも宇宙環境上のリスクとして扱っています。

ただし映画では、衛星破壊後すぐに連鎖反応が広がっているように描かれます。現実には破片が軌道上に広がり、別の物体との衝突リスクを高める過程はもっと複雑です。数十分のうちに世界中の宇宙施設がドミノ倒しのように壊れていくと考えるのは無理があります。

「宇宙ごみが危険」という部分は現実的ですが、「破壊された衛星の破片が短時間で巨大な破壊の波となり、90分ごとに主人公を追いかける」という部分は映画的な演出です。

ありえないシーン3:コワルスキーは本当に手を離す必要があったのか

科学的な議論で特によく取り上げられるのが、ISS付近でコワルスキーがストーンとの接続を外し、そのまま宇宙へ遠ざかっていく場面です。「無重力なのだから手を離しても遠くへ飛んでいかないのでは?」という疑問には理由があります。

完全に止まっていたなら、急に遠ざかる力はない

映画の画面だけを見ると、ストーンとコワルスキーは一度ほぼ静止したように見えます。もしISSに対する相対運動が本当に止まり、ロープにもほとんど張力が残っていなかったのであれば、コワルスキーが接続を外した瞬間に加速して遠ざかる理由はありません。

空気抵抗がほぼない宇宙では、物体は外から力を受けない限りそれまでの運動を続けます。その状態なら、ストーンがロープを軽く引くだけでもコワルスキーを自分の方向へ動かせます。

このため、この場面は公開当時から「映画で最も有名な物理的ミス」の一つとして指摘されてきました。

ただし「完全な間違い」と断定できない理由もある

一方、映画の科学アドバイザー側からは別の解釈も示されています。ストーンの脚はソユーズのパラシュートコードに引っ掛かっており、そのコードが伸びながら2人の運動エネルギーを吸収している途中だったという考え方です。

その場合、見た目にはゆっくりになっていても、まだ外向きの運動が残っています。2人分の運動エネルギーをコードが受け止めきれないとコワルスキーが判断したなら、自分を切り離す行動にも物理的な説明はできます。

さらに、ISSや2人の系にわずかな回転が残っていれば、ロープに張力が発生する可能性もあります。

結局、このシーンは科学的におかしい? 画面から「2人は完全に静止している」と解釈するなら不自然です。しかし、まだ減速中だった、あるいは回転運動が残っていたと考えれば成立する余地があります。そのため、他の軌道移動シーンほど明確な間違いとはいえません。

ありえないシーン4:消火器をジェット噴射に使うことはできる?

ストーンが消火器を噴射し、その反動で天宮1号へ向かう場面も印象的です。一見すると完全な漫画的演出に見えますが、実は「消火器で推進する」という発想そのものは物理法則に反していません。

前に進む原理そのものは正しい

消火器からガスや消火剤を一方向へ勢いよく噴射すれば、その反作用によって本体は反対方向へ押されます。ロケットが燃焼ガスを後方へ噴射して前進するのと基本的には同じで、ニュートンの運動法則に沿った現象です。

地上では人の体に働く摩擦や重力の影響が大きいため実感しにくいですが、宇宙空間で噴射できる消火器を持っていれば、反動によって身体の速度を変えることはできます。

難しいのは「進むこと」ではなく「狙った場所に着くこと」

問題は制御です。消火器を身体の重心から少しずれた位置で噴射すると、前進する力だけでなく身体を回転させる力も発生します。宇宙にはその回転を自然に止めてくれる空気抵抗がほとんどありません。

一度身体が回り始めれば、逆方向の力を正確に加えて回転を止める必要があります。しかも消火器は宇宙船の姿勢制御装置ではないため、複数方向へ精密に噴射するスラスターも、自動的に姿勢を安定させる制御システムもありません。

NASAの緊急用装置SAFERには、宇宙飛行士が姿勢を整えながら移動できるよう複数の噴射装置が配置されています。消火器1本を手で持つだけでは同じような制御はできません。

消火器で身体を動かすことは「可能」。しかし、回転を抑えながら遠くの宇宙施設へ正確に到達するのは「極めて困難」というのが妥当な評価です。

涙や髪、宇宙服にも科学的におかしいところがある

軌道移動ほど物語に影響しないものの、細かな描写にも現実との差があります。特に涙、髪の毛、宇宙服は、実際の微小重力環境を知ると違いが分かりやすい部分です。

涙はすぐに顔から離れて飛んでいかない

ストーンが涙を流し、水滴が顔から離れて浮遊する印象的な場面があります。微小重力では水滴が球状になりやすいこと自体は正しいのですが、涙の動きは現実と少し異なります。

カナダ宇宙庁の宇宙飛行士クリス・ハドフィールドはISSで涙の挙動を実演しており、水は表面張力によって目の周囲にまとわりつき、大きな水の塊になりました。地球のように頬を下へ流れ落ちることはありません。

水が十分な勢いで押し出されれば離れることはありますが、泣いただけで美しい球状の涙が次々と顔から飛び出していくとは考えにくいでしょう。

ストーンの髪はもう少し浮いてもおかしくない

ISS内部では、長い髪の宇宙飛行士の髪が頭の周囲へ大きく広がっている映像をよく目にします。髪にも「下方向」がなくなるためです。

映画のストーンは比較的短い髪なので、長髪の宇宙飛行士ほど派手に広がる必要はありません。それでも、地上とほぼ同じ形を保ち続けている点には撮影上の都合が感じられます。

ただしこれは、作品全体の科学的リアリティを左右するほど大きな問題ではなく、CGや撮影技術とのバランスを取った演出と考えるのが自然です。

宇宙服を脱いだ直後の服装は現実と違う

ストーンが宇宙服を脱ぐと、かなり薄着の状態になります。しかし実際の船外活動用宇宙服の下には、体温を調節するためのLiquid Cooling and Ventilation Garmentと呼ばれる冷却・換気用の衣服を着用します。

この衣服には細いチューブが張り巡らされ、冷却水を循環させて船外活動中の体温上昇を抑えます。宇宙服は単なる厚手の服ではなく、酸素供給、気圧維持、温度調節、通信、宇宙ごみからの保護などを担う小型の生命維持装置です。

映画のように宇宙服を素早く脱ぎ、すぐ軽装になる描写は映像として分かりやすい反面、実際の船外活動装備とは大きく簡略化されています。

逆に『ゼロ・グラビティ』が科学的にかなり正しいシーンもある

「ありえないシーン」が話題になりやすい作品ですが、間違いばかりではありません。むしろ、宇宙映画でありがちな演出をあえて避けている部分も多く、それが作品のリアリティにつながっています。

宇宙空間で爆発音や衝突音が鳴り響かない

ほぼ真空の宇宙空間では、空気のように音波を伝える物質がほとんどありません。そのため、少し離れた宇宙船が爆発しても、地上の映画のように「ドーン」という爆発音が空間を伝わって聞こえることはありません。

『ゼロ・グラビティ』では、宇宙空間での衝突を派手な効果音だけで表現せず、静けさを強調しています。物体に直接触れている場合には振動が固体を通じて伝わるため、宇宙服や宇宙船を介した振動として感じる可能性はあります。

つまり「宇宙では何が起きても絶対に音が存在しない」のではなく、真空を隔てた離れた場所へ通常の音が伝わらないという理解が正確です。

高速で漂い始めると簡単には止まれない

冒頭でストーンが宇宙空間へ放り出され、回転しながら遠ざかっていく場面も恐怖を感じさせます。宇宙では摩擦や空気抵抗がほぼないため、一度生じた並進運動や回転運動は自然には簡単に止まりません。

地上では転がしたボールが摩擦でやがて止まるため、「力を加えなければ物体はいずれ止まる」という感覚を持ちやすいですが、これは摩擦がある環境だからです。

宇宙空間で何にもつながっておらず、推進装置も使えない状態になれば、自分の身体を動かすだけで自由に元の宇宙船へ戻ることはできません。この恐怖の基本設定は非常に現実的です。

タイトルの「ゼロ・グラビティ」は厳密には無重力ではない

日本語タイトルは『ゼロ・グラビティ』ですが、ISSやハッブルが飛んでいる場所から地球の重力が消えているわけではありません。英語の原題はシンプルに『Gravity』です。

ISSが地球を回り続けられるのも、地球の重力に引かれているからです。ISS高度でも地球表面と比べて重力は大きく弱くなっているわけではなく、おおよそ9割程度残っています。

それでも宇宙飛行士が浮いて見えるのは、宇宙船も中の人も一緒に地球へ向かって落下し続けているからです。十分な横方向の速度があるため、落下しても地表にぶつからず地球を回り続けます。これが軌道飛行です。

宇宙飛行士が感じているのは「重力が存在しない状態」というより、宇宙船と一緒に自由落下していることで生じる微小重力状態です。

ハッブルをスペースシャトルで修理する設定そのものは現実的

映画冒頭ではスペースシャトル「エクスプローラー」の乗組員がハッブル宇宙望遠鏡を修理しています。エクスプローラーという機体自体は架空ですが、スペースシャトルによるハッブル修理は実際に何度も行われました。

最後のハッブル整備ミッションSTS-125は2009年に実施され、宇宙飛行士が複数回の船外活動で機器の修理や交換を行っています。映画のハッブル周辺の機材や船外活動の見た目が妙にリアルなのは、現実の宇宙開発を細かく参考にしているためです。

一方で現実のスペースシャトル計画は2011年7月に終了し、中国の天宮1号が打ち上げられたのは同年9月です。そのため、実際のスペースシャトルと天宮1号が同時に軌道上で運用されていた時期はありません。なお、映画に登場する天宮1号はすでに役割を終え、2018年に大気圏へ再突入しています。

なぜ科学的におかしいのに『ゼロ・グラビティ』はリアルに感じるのか

『ゼロ・グラビティ』のおもしろいところは、大きな科学的省略があるにもかかわらず、多くの場面が現実の宇宙映像のように感じられることです。その理由は、映画が間違えている部分と正確に描いている部分の位置にあります。

特に大胆に変更されているのは「どの宇宙施設がどの軌道にあるか」「短時間で別の宇宙施設へ移れるか」といった、画面だけでは理解しにくい軌道力学です。ここを現実通りにすると、主人公はハッブルからISSへ移動できず、物語そのものが成立しません。

反対に、物体が慣性で動き続ける感覚、身体の向きを自由に変えにくい怖さ、上下のない空間、音が伝わらない真空、地球を背景にした船外活動といった「観客が直接感じる部分」には強くリアリティを持たせています。

その結果、専門知識がなくても「本当に宇宙で起こっているように見える」映像になっています。

科学考証を見るときは、「現象の原理が間違っているのか」「原理は正しいが規模や時間が誇張されているのか」を分けると理解しやすくなります。『ゼロ・グラビティ』は後者に当たる場面が少なくありません。

たとえば消火器による推進は原理的には可能、宇宙ごみの衝突も現実の危険です。しかし、消火器だけで正確にランデブーすることや、破片群が短時間で複数の異なる軌道を次々と襲うことになると現実性が大きく下がります。

この区別をすると、「ありえないから全部嘘」という見方にも、「映像がリアルだから全部正しい」という見方にもならず、映画がどこで科学を利用し、どこで物語を優先したのかが見えてきます。

ゼロ・グラビティのありえないシーンをまとめると、軌道移動が最大のフィクション

まとめ
まとめ

『ゼロ・グラビティ』で科学的に最もおかしいのは、ハッブル宇宙望遠鏡からISSへ、さらに天宮1号へと比較的簡単に移動できる設定です。実際にはそれぞれ軌道の高度や傾きが異なり、小型の船外活動用推進装置だけで渡り歩くことはできません。

宇宙ごみが危険なことや低軌道の物体が約90分で地球を一周することは事実ですが、同じ破片群が約90分ごとに主人公を襲い、異なる軌道の宇宙施設を次々と破壊する流れは大きく誇張されています。

コワルスキーが手を離す場面については物理的な解釈が分かれ、消火器も推進そのものは可能です。そのため、よく「ありえない」と言われる場面でも、すべてが完全な科学的ミスというわけではありません。

『ゼロ・グラビティ』は、軌道力学では物語のために大きな嘘をつきながら、宇宙で人間が感じる運動や孤立感はかなりリアルに描いた作品です。科学的におかしい部分を知ったうえで見直すと、どこまで現実を再現し、どこから映画として割り切ったのかという別の楽しみ方ができます。

タイトルとURLをコピーしました