映画『アクアマン』を見ていると、「海中なのに普通に会話しているけれど、どうやって撮影したの?」と気になる人も多いでしょう。髪や衣装は水中らしく漂い、俳優たちは自由自在に泳ぎながら会話しています。
実は、主要な海中シーンの多くは本物の海やプールの中で撮影したものではありません。俳優を水のないスタジオで撮影し、専用の装置とワイヤー、CG、音響処理を組み合わせて海中にいるように見せています。
この記事では、『アクアマン』の海中会話をどうやって撮影したのかを中心に、俳優が浮いて見える仕組み、髪や衣装の処理、声の作り方、本当に水中撮影をしなかった理由までわかりやすく紹介します。
アクアマンの海中会話はどうやって撮影した?結論は「水なし+VFX」

『アクアマン』の海中会話シーンを見て「俳優が実際に潜って演技しているのでは?」と思うかもしれません。しかし、アトランティスなどを舞台にした主要な海中シーンは、基本的に水のない撮影スタジオで作られています。
海中シーンの中心となったのは、「ドライ・フォー・ウェット」と呼ばれる、水を使わずに水中にいるように見せる撮影方法です。
俳優は水ではなくブルースクリーンのスタジオにいた
ジェームズ・ワン監督は、海中世界の撮影に「dry for wet(ドライ・フォー・ウェット)」を使ったと説明しています。俳優をブルースクリーンの前で撮影し、後からアトランティスなどの背景を合成する方法です。
つまり、アーサーやメラが海底で立ち止まって話している場面も、完成映像では大量の水に囲まれているように見えますが、撮影現場そのものは乾いたスタジオだったケースが多いのです。
DC公式の制作記事でも、海中シーンの多くが陸上で撮影され、俳優用のリグとワイヤーワーク、VFXを組み合わせて完成させたことが説明されています。
「浮いている姿」はハーネスと専用リグで作った
水のない場所で普通に立って演技しただけでは、当然ながら水中の浮遊感は出せません。そこで俳優はハーネスを装着し、「チューニングフォーク」と呼ばれる特殊なリグなどに支えられながら演技しました。
チューニングフォークは、大きな金属製の支柱から伸びた装置で俳優の腰付近を支え、体を傾けたり回転させたりできる仕組みです。装置によって複数方向へ体を動かせるため、ただ宙吊りにするよりも自然な浮遊姿勢を作れます。
会話場面でも完全に静止するのではなく、少し上下したり体が傾いたりすることで、水中に浮かびながら話しているように見せていました。
撮影後に装置を消して海中世界を合成した
撮影時にはハーネスや金属製のリグが俳優の周囲に存在します。当然、そのままでは完成映像に使えません。そのためVFX制作では、ブルースクリーンを背景に置き換えるだけでなく、俳優を支えている装置も消す必要があります。
装置によって体の一部が大きく隠れる場合には、CGで作った体や衣装に置き換えられることもありました。つまり「実写の俳優に背景だけCGを加えた」という単純な方法ではなく、実写とデジタル映像を細かく組み合わせているのです。
水中で泳ぎながら話している動きは専用リグで作られた

『アクアマン』の撮影で特に難しかったのは、単に人を宙に浮かせることではありません。アトランティス人らしい「水中では自由自在に動ける人間」を表現する必要がありました。
普通の人間が泳ぐ動きとは意図的に変えている
実際の人間が水中を泳ぐ場合、水の抵抗を受けるため、地上より動きは遅くなります。しかし『アクアマン』に登場するアトランティス人は、水中生活に適応した存在です。
ジェームズ・ワン監督は、アトランティス人にとって海中は地上の人間にとっての空気中のようなものだと考え、普通の人間が潜ったときのような重くゆっくりした動きにはしませんでした。
実際の魚やイルカ、サメなどの動きも参考にし、小さな体の動きだけで一気に前へ進むような表現が考えられています。そのため、映画ではアーサーたちが水の抵抗をほとんど感じさせず、かなり高速で移動できます。
まず地上で動きを作り、ワイヤーを加えて立体化した
戦闘シーンでは、最初から俳優を吊り上げてすべてを考えたわけではありません。まず地面の上で通常の格闘シーンとして振り付けを作り、それを徐々に水中用へ変化させています。
地上なら横へ避ける動きを、海中では上下へ回転して避ける動きに変えるなど、上下左右へ移動できる水中ならではの立体的なアクションへ発展させました。
そこへワイヤーワークや専用リグを組み合わせ、最後にCGで現実の装置では実現できないスピードや移動距離を加えています。
会話だけの場面も意外と撮影が大変だった
激しい戦闘シーンだけでなく、アトランティスで数人が立ち止まって会話するような場面にも同じ問題があります。地上なら椅子に座ったり立ったりするだけで済みますが、海中設定では全員が浮いていなければ不自然です。
プロデューサーのピーター・サフランも、普通の映画なら簡単な「数人がテーブルを囲む場面」であっても、『アクアマン』では全員をハーネスで支えて浮かせる必要があるため複雑になると説明しています。
アクアマンの海中会話の声はどうやって作った?

映像と同じくらい工夫されているのが「声」です。実際の水中で普通の人間が口を開いて会話することはできませんが、『アクアマン』では登場人物が地上とほぼ同じようにはっきり話します。
会話そのものは普通に話す設定にした
ジェームズ・ワン監督は、水中会話について必要以上に複雑な理屈を持ち込まず、「アトランティス人なら地上の人間と同じ感覚で会話するだろう」という考え方を採用しています。
そのため、登場人物が口を開くたびに大量の泡が出たり、声が極端にこもったりする表現にはしていません。海中でも普通に意思疎通できる種族として描くことで、観客が台詞に集中できるようになっています。
これは科学的な水中会話を再現した映像ではなく、アトランティスという架空の文明のルールを優先した演出と考えるとわかりやすいでしょう。
リアルな水中音にすると台詞が聞き取れなかった
それでも声が地上とまったく同じでは、海中にいる感覚が弱くなります。そこで音響チームは、声へどの程度「水中らしさ」を加えるか試行錯誤しました。
音響制作を担当したFormosa Groupの解説によると、実際の水中環境を再現した音響処理も試したものの、リアルにしすぎると台詞が聞き取りにくくなったとされています。
映画、とくにストーリーを台詞で進める作品では、リアルさよりも言葉を理解できることが重要です。そこで最終的には、「水中だと感じられる程度の加工を残しながら、台詞ははっきり聞こえる」というバランスが選ばれました。
フランジャーや残響などを薄く加えている
Formosa Groupによる制作解説では、水中の声を作るため、フランジャー、フェイザー、ディレイ、エコー、リバーブなど、さまざまな音響処理を試したことが明らかにされています。
フランジャーやフェイザーは、音にわずかな揺れや独特の広がりを加える処理です。リバーブやエコーを加えれば、声が周囲へ響いているような感覚も作れます。
ただし効果を強くすると、面白い音にはなっても台詞が聞き取りにくくなります。完成版では処理をかなり控えめにし、必要な場面だけ残響などを強調していました。
海中の環境音も実際に録音して作られた
声だけでなく、周囲の水音にも多くの工夫があります。制作チームはプールや海でさまざまな音を収録し、水中マイクであるハイドロフォンも使用しました。
泡、圧縮空気、水の噴射などを録音し、速度や音程を変えることで、泳ぐ音や水圧を感じさせる重い効果音などに加工しています。
つまり『アクアマン』の「海の音」は、単純にザーッという水音を流しているわけではありません。声、泡、水の動き、低音などを場面ごとに調整し、映像と組み合わせて海中空間を成立させています。
髪や衣装が水中で揺れるのはCGによる部分が大きい

海中会話の映像を自然に見せるうえで、制作陣を特に悩ませたのが髪です。俳優自身は乾いたスタジオにいるため、そのまま撮影すると髪は重力によって下へ落ちてしまいます。
主要キャラクターの髪はCGで大幅に作り直した
VFXを担当したIndustrial Light & Magic(ILM)は、主要キャラクターの髪のほぼすべてをコンピューターでシミュレーションしたと説明しています。
撮影では髪を固定するなどして扱いやすくし、完成映像ではCGの髪を重ねたり置き換えたりして、水流の中を漂っている状態を再現しました。
ILM公式の『Aquaman』制作ページによると、同社のHairCraft技術を利用し、それぞれの髪がキャラクターの移動や海流に反応するようシミュレーションされています。
「物理的に正しい」だけでは映画としてきれいに見えない
興味深いのは、本物の水中と同じ物理計算をすれば終わりではなかったことです。現実の髪は、水流によって顔へかかったり、まとまりが崩れたりします。
しかし映画の重要な会話場面で髪が俳優の目や口を隠してしまえば、表情が見えなくなります。そのため、水中らしい動きを保ちつつ、顔が美しく見えるよう調整する必要がありました。
VFXスーパーバイザーの制作インタビューでは、高精細な髪のシミュレーションが必要なショットは約700に及んだとされています。
衣装やヒゲ、場合によっては体までCGになっている
水中で不自然になるのは髪だけではありません。マントや布、ヒゲなども、本来なら水流の影響を受けます。そこで必要に応じてCGによる動きが追加されました。
さらに、ハーネスやリグが俳優の体を大きく隠しているショットでは、実写の頭部を残しながら首から下をデジタル版へ置き換えることもあります。
アクションが激しく、人間の体では不可能な泳ぎ方をさせたい場面では、俳優を再現した「デジタルダブル」が使用されます。実写とCGの境界を目立たなくすることで、会話から高速移動まで一続きの動きに見せているのです。
水中の光まで専用技術で再現している
人物だけ自然に動いても、照明が普通のスタジオと同じでは海中には見えません。水の中では距離によって光や色が吸収され、地上とは違った見え方になります。
ILMは『アクアマン』のために「Spectral Absorption」というツールを開発し、海水によって光や色が吸収されていく状態をシミュレーションしました。
撮影現場でも、水を入れたトレーへ光を当てて揺らすなど、水面から差し込む光のような模様を作る方法が使われています。実写照明とCGの両方から海中らしい見え方を作っているわけです。
なぜ本当に水中で撮影しなかったのか

「ここまで大がかりなCGを使うなら、最初からプールで撮ったほうが簡単なのでは?」と思うかもしれません。しかし、『アクアマン』が目指した映像を本当の水中だけで撮影することには大きな制約があります。
実際の水中ではアクションが遅くなる
普通の人間が水中へ入れば、水の抵抗によって動きが大幅に遅くなります。素早く方向転換したり、地上と同じ速度で殴り合ったりすることはできません。
ところがアトランティス人は水中に適応した超人的な存在として描かれています。ジェームズ・ワン監督は、彼らが水中で地上の人間以上に力強く動くことを重視しました。
そのため、本物の水中で俳優をゆっくり泳がせるより、乾いたスタジオで自由に演技してもらい、リグとVFXによってスピード感を作るほうが作品の設定に合っていたのです。
呼吸や台詞の問題も避けられる
水中で長い会話シーンを撮影しようとすれば、通常の俳優には呼吸の問題があります。水中用の呼吸装置を使えば、それ自体が映像に映り込みます。
乾いたスタジオなら、俳優は表情や台詞の演技に集中できます。海中会話が多い『アクアマン』では、とくに大きなメリットだったと考えられます。
ただし、ハーネスへ長時間つながれた状態で演技すること自体は楽ではありません。制作陣も、俳優にとって身体的な負担が大きかったことを語っています。
カメラを自由に動かせるメリットも大きい
海中撮影では、カメラマンや機材も水中へ入れる必要があり、動かせる範囲に制約が生まれます。スタジオ撮影なら、クレーンや移動撮影などを利用しやすく、俳優の周囲をカメラが大きく回り込む映像も作れます。
さらに完成時には背景そのものがCGで作られるため、実写撮影では不可能な距離をカメラが移動することも可能です。アトランティスの巨大都市を見せながら人物へ接近するような映像は、この自由度の高さを生かしたものです。
『アクアマン』が水中撮影を避けた最大の理由は、単に撮影を楽にするためではありません。「水中で自由自在に動ける超人」という設定を表現するには、本物の水がむしろ制約になったからです。
全部が水なし・CGだったわけではない

主要な海中世界がドライ・フォー・ウェットで作られている一方、『アクアマン』で水をまったく使わなかったわけではありません。実際の水を使った撮影や研究も行われています。
セットや衣装を水へ沈めて見え方を研究した
制作チームは、水中で物体や衣装がどう見えるのかを確認するため、実際にセットや衣装などを水へ沈めて研究しました。
興味深いのは、「濡れているように見える状態」と「水中にある状態」が必ずしも同じではないことです。水から上がった人は水滴が光を反射して濡れて見えますが、水中ではその水滴が目立ちません。
こうした観察をもとに、乾いたスタジオで撮影する際のメイク、照明、CG表現が決められていきました。単純な想像だけで水中世界を作ったわけではなく、現実の水中の見え方を参考にしながらファンタジーへ落とし込んでいます。
潜水艦などでは実際の水を使った撮影もある
物語序盤に登場する潜水艦のシーンなどでは、大型セットと水槽を利用した実写撮影も行われました。潜水艦のセットを水へ沈め、撮影後に引き上げて乾かし、再び撮影するといった大がかりな作業も行われています。
メラが水を操る場面などでも、実際の水による特殊効果とVFXを組み合わせたショットがあります。
したがって「『アクアマン』は全部ブルースクリーンだけで撮影した」という理解も正確ではありません。俳優の海中演技はドライ・フォー・ウェットを中心にしつつ、実物を使ったほうが効果的な場面では本物の水やセットを使うという使い分けがされています。
アクアマン2では撮影方法がさらに進化した
なお、続編『アクアマン/失われた王国』のメイキング映像を見ると、1作目とは違った撮影方法が登場するため、混乱する場合があります。
1作目では俳優をハーネスとチューニングフォークで浮かせる方法が中心でしたが、続編ではEyeline Studiosのボリュメトリックキャプチャー技術も活用されました。
円形に配置された多数のカメラで俳優の演技を記録し、そのデータからデジタルキャラクターを作成して海中世界へ配置する方法です。制作資料では、136台のカメラを備えた撮影環境が使われたと紹介されています。
そのため、ネット上で『アクアマン』のメイキングを探して「専用リグに吊られている映像」と「大量のカメラに囲まれて演技する映像」の両方が出てきても不思議ではありません。前者は1作目を代表する方法で、後者は続編で導入された新しいアプローチです。
アクアマンの海中撮影が自然に見える理由

完成映像を見るだけでは、どこまでが実写でどこからがCGなのかわかりにくいのが『アクアマン』の面白いところです。自然に感じられる理由は、ひとつの特殊効果だけに頼っていないことにあります。
俳優自身の演技を土台にしている
海中世界の背景や髪をCGで作っていても、表情や体の動きの中心には俳優自身の演技があります。VFX担当者も、体全体をデジタル版へ置き換える場合でさえ、実際の俳優のポーズや演技を基準にしていたと説明しています。
そのため、完全なCGキャラクターをゼロから動かしているようには見えません。ジェイソン・モモアやパトリック・ウィルソンらの演技を基準にし、必要な部分だけをデジタル技術で拡張しています。
映像と音を同じ方向性で作っている
視覚的に水中に見えても、声が完全に地上と同じなら違和感があります。逆に、声をリアルな水中音へ近づけすぎれば台詞を理解できません。
『アクアマン』では、映像側では髪や衣装、浮遊、光の吸収などを細かく作り込みながら、音響側では水中感を少しだけ加える方法が取られています。
リアルさをすべての要素で最大化するのではなく、「観客が海中だと感じるために必要な特徴」を選び、その一方で会話の聞きやすさや俳優の表情は守る。このバランスが、長時間の海中シーンを見ても疲れにくい理由のひとつと考えられます。
現実の水中とファンタジーを意図的に混ぜている
『アクアマン』の海中表現は、科学的に完全な水中再現ではありません。実際の人間ならできない会話や高速移動を普通に行います。
一方で、髪の漂い方、光の変化、水の音、泡などには現実の水中を参考にした要素が入っています。この「本物らしい部分」と「映画として見やすくする嘘」の組み合わせが重要です。
すべてをリアルにすると、登場人物は高速で戦えず、台詞も聞き取りにくくなります。すべてを地上と同じにすると、今度は海中に見えません。『アクアマン』はその中間を狙い、映像・演技・VFX・音響を組み合わせて独自の海中世界を成立させています。
アクアマンの海中会話・撮影方法をまとめると
『アクアマン』の海中会話は、俳優が実際に海へ潜って長時間撮影したものではありません。主要な海中シーンでは「ドライ・フォー・ウェット」という方法を使い、ブルースクリーンのスタジオで俳優をハーネスやチューニングフォークに支えながら撮影しています。
その映像へアトランティスの背景、水中の光、海流、泡などを追加し、髪や衣装も必要に応じてCGへ置き換えています。装置で隠れた体や人間には不可能な高速アクションでは、デジタルダブルも利用されました。
会話についても、本物の水中音をそのまま再現しているわけではありません。台詞を聞き取りやすくしたまま、フランジャーやリバーブ、エコーなどを薄く加え、「普通に話せるけれど確かに海中にいる」と感じられる音へ仕上げています。
つまり『アクアマン』の海中会話が自然に見えるのは、本物の水中で撮ったからではなく、俳優の実演を土台に、専用リグ、ワイヤー、CGの髪や衣装、水中照明、音響処理を組み合わせて作り込んだからです。メイキング映像を見ると、完成版との違いから映画制作の工夫がよりはっきりわかります。



