映画『フィフス・エレメント』で強烈な印象を残す、青い宇宙人ディーヴァのオペラシーン。「あの歌は誰が歌っているの?」「本当に人間が歌っているの?」「曲名は何?」と気になった人も多いのではないでしょうか。
結論からいうと、『フィフス・エレメント』のオペラの歌声を担当したのは、アルバニア出身のソプラノ歌手インヴァ・ムラ(Inva Mula)です。ただし、画面に映っているディーヴァを演じた女優とは別人です。
さらに、あの印象的な場面は一曲だけではありません。ドニゼッティのオペラ『ランメルモールのルチア』の一節から、映画のためにエリック・セラが作曲した「The Diva Dance」へと続く構成になっています。歌手、曲名、驚異的な歌声の仕組みまで順番に整理します。
フィフス・エレメントのオペラの歌は誰が歌っている?答えはインヴァ・ムラ

『フィフス・エレメント』のフロストン・パラダイスで、青い肌のディーヴァ・プラヴァラグナが披露する歌。その実際の歌声を担当しているのがインヴァ・ムラ(Inva Mula)です。
一方、映画の画面上でディーヴァを演じているのはフランスの女優マイウェン・ル・ベスコです。つまり、映像上の演技と歌声を二人の人物が分担しています。
| 役割 | 担当者 |
|---|---|
| ディーヴァの歌声 | インヴァ・ムラ(Inva Mula) |
| ディーヴァ・プラヴァラグナの映像上の演技 | マイウェン・ル・ベスコ(Maïwenn Le Besco) |
| 映画音楽・「The Diva Dance」の作曲 | エリック・セラ(Éric Serra) |
| 前半で使用されるオペラの作曲者 | ガエターノ・ドニゼッティ |
インヴァ・ムラは本職のオペラ歌手
インヴァ・ムラは、映画のためだけに起用されたスタジオ歌手ではありません。アルバニア出身の本格的なオペラ歌手で、リリック・ソプラノとして長いキャリアを持っています。
ロサンゼルス・フィルハーモニックのプロフィールでは、1993年にパリのオペラ・ガルニエで開催されたプラシド・ドミンゴのコンクールで国際的な注目を集め、その後『椿姫』『ラ・ボエーム』『リゴレット』など幅広い作品に出演した経歴が紹介されています。LA Philのインヴァ・ムラ紹介ページでも、ベルカントやモーツァルト作品を含むレパートリーで評価されてきたソプラノであることが確認できます。
そのため『フィフス・エレメント』の歌声にオペラらしい響きと説得力があるのは当然ともいえます。映画では電子的な加工も利用されていますが、その土台になっているのはプロのソプラノによる高度な歌唱です。
画面に映っているのはマイウェン・ル・ベスコ
検索すると「ディーヴァ役はマイウェン」「歌っているのはインヴァ・ムラ」という二つの名前が出てくるため、混乱しやすいところです。
マイウェン・ル・ベスコは青い肌と長い触手を持つディーヴァ・プラヴァラグナを身体で演じ、インヴァ・ムラが歌唱を担当しています。映画では口の動きと音楽が自然につながっているため、一人の俳優が実際に歌っているように見えます。
「誰が歌っている?」ならインヴァ・ムラ、「青いディーヴァを誰が演じている?」ならマイウェン・ル・ベスコ、と覚えるとわかりやすいです。
クレジットでは名前の表記が異なることがある
インヴァ・ムラを調べると、「Inva Mula」のほか、「Inva Mula-Tchako」などの表記を見かける場合があります。そのため別の歌手だと思うかもしれませんが、『フィフス・エレメント』の歌声を担当した人物として指しているのは同じインヴァ・ムラです。
ロンドン交響楽団が公開しているディスコグラフィーにも、『The Fifth Element』の録音に「Inva Mula-Tchako (soprano)」と記載され、ドニゼッティ『Lucia di Lammermoor』の狂乱の場を録音したことが記録されています。London Symphony Orchestra Discographyでも確認できます。
オペラの曲名は『ランメルモールのルチア』と「The Diva Dance」

『フィフス・エレメント』のディーヴァの歌を一曲だと思っている人も少なくありません。しかし、映画で印象的に使われる歌唱は、大きく分けるとクラシック・オペラ部分と映画オリジナル部分の二つがあります。
前半はガエターノ・ドニゼッティ作曲のオペラ『ランメルモールのルチア(Lucia di Lammermoor)』。そこから未来的なリズムが加わり、エリック・セラ作曲の「The Diva Dance」へ移ります。
| 部分 | 曲 | 作曲 | 歌唱 |
|---|---|---|---|
| 前半 | 『ランメルモールのルチア』の「狂乱の場」 | ガエターノ・ドニゼッティ | インヴァ・ムラ |
| 後半 | The Diva Dance | エリック・セラ | インヴァ・ムラの声を基に制作 |
前半は『ランメルモールのルチア』の「狂乱の場」
静かなオーケストラとともにディーヴァが歌い始める前半部分は、19世紀イタリアの作曲家ドニゼッティによるオペラ『ランメルモールのルチア』から採られています。
映画で使われるのは、ヒロインのルチアが歌う有名な「狂乱の場」の一部です。「Il dolce suono」という言葉で始まるため、この名称で曲を探すと映画とよく似た旋律を聴くことができます。
新国立劇場も『ルチア』について、恋人との関係を引き裂かれ、政略結婚によって追い詰められたルチアが狂気に陥って歌う「狂乱の場」が大きな見せ場であると紹介しています。新国立劇場『ルチア』作品紹介を見ると、映画の元になったオペラの位置づけも理解しやすくなります。
後半の高速な歌が「The Diva Dance」
クラシックなオペラとして始まった歌が、突然電子的なビートに変化し、ディーヴァが人間離れした速度で高音と低音を行き来し始めます。ここが「The Diva Dance」です。
「The Diva Dance」はドニゼッティの原曲そのものではなく、『フィフス・エレメント』の音楽を担当したエリック・セラによる映画オリジナル曲です。未来の宇宙で活動する異星人歌手らしい、現実のオペラを超えたサウンドとして設計されています。
現在の音楽データベースでも「The Diva Dance (feat. Inva Mula)」としてエリック・セラとインヴァ・ムラの名前が確認できます。Shazamの楽曲情報では、エリック・セラが作曲・プロデュースを担当したことも掲載されています。
サントラでは2つのトラックに分かれている
映画では二つの音楽が自然につながって聞こえますが、オリジナル・サウンドトラックでは別々のトラックとして収録されています。
日本盤では14曲目が「ルチア・ディ・ラメルモール」、15曲目が「ザ・ディーヴァ・ダンス」です。映画の場面をそのまま思い浮かべながら聴きたい場合は、この2曲を順番に再生するとわかりやすいでしょう。
Billboard JAPANが掲載している国内盤のトラックリストでも、14曲目「ルチア・ディ・ラメルモール」、15曲目「ザ・ディーヴァ・ダンス」という並びを確認できます。Billboard JAPAN『フィフス・エレメント オリジナル・サウンドトラック』
歌手インヴァ・ムラはどんな人?映画だけで有名になった歌手ではない

『フィフス・エレメント』からインヴァ・ムラを知った場合、「あの映画のために特殊な声を出した歌手」というイメージを持つかもしれません。しかし、彼女の本来の活動分野はクラシック・オペラです。
アルバニア出身のリリック・ソプラノ
インヴァ・ムラは1963年にアルバニアのティラナで生まれたソプラノ歌手です。コソボのオペラ文化を支援するRLIOF Festivalの公式プロフィールでも、アルバニアのオペラ・リリック・ソプラノとして紹介されています。
同プロフィールでは、1993年にパリで開催された第1回Operalia International Opera Competitionで賞を得た経歴とともに、『フィフス・エレメント』のディーヴァ・プラヴァラグナの声を担当した人物としても紹介されています。RLIOF FestivalのInva Mulaプロフィール
「The Diva Dance」以外では本格的なオペラの役を多数担当
ムラは『椿姫』のヴィオレッタ、『ラ・ボエーム』、『マノン』、『リゴレット』など、フランス・イタリア系を中心としたオペラ作品で活動してきました。
ここからわかるのは、『フィフス・エレメント』の録音に求められたのが単に「高い声が出る人」ではなかったということです。前半には本物のベルカント・オペラが使われているため、声域だけでなく、音程、装飾音、フレージングなど高度なクラシックの技術が必要になります。
映画ではクラシックとSFの両方を一人の声でつないでいる
このシーンが独特なのは、前半の19世紀オペラと後半の未来的な電子音楽を、同じ歌声がつないでいる点です。最初から完全な電子音声にしてしまうと、「宇宙一の歌姫」という存在に人間的な感情が生まれにくくなります。
まず本格的なソプラノの声を聞かせ、その声を素材として現実では難しい動きへ拡張していくため、観客には「確かに人の声なのに、どこか人間を超えている」という感覚が残ります。インヴァ・ムラの起用は、この演出を成立させる重要な要素だったと考えられます。
「The Diva Dance」は本当に人間が歌っている?歌声には加工がある

「The Diva Dance」を初めて聞くと、あまりに速い音の跳躍が続くため、「本当に人間が歌っているのか」と疑問に思うのは自然です。
答えを整理すると、元になっているのはインヴァ・ムラ本人の声ですが、完成した映画版は録音した声をサンプリングして編集したものです。したがって、「全部CGの声」でも「最初から最後まで無加工の一発歌唱」でもありません。
エリック・セラは「異星人にしか歌えない声」を目指した
映画音楽を担当したエリック・セラは、ディーヴァが地球人ではないことを音だけでも伝えられるよう、人間の声では連続して再現することが難しい急激な音程の移動や高速フレーズを取り入れました。
つまり難しい曲を偶然歌手が歌えなかったため後から修正したのではなく、そもそも「普通の人間にはできない歌」を狙った音楽設計だった点が重要です。映画内の存在が異星人なのですから、声にも現実世界の身体的な限界を超えた特徴を持たせる必要があったわけです。
インヴァ・ムラの声を録音し、サンプラーで再構成している
後半をよく聞くと、高い音から低い音へ瞬時に移動したり、ごく短い間隔で音が飛び回ったりする箇所があります。このような部分では、インヴァ・ムラが録音した声を素材にし、サンプラーなどを使って編集しています。
ただし、加工されているから歌手の技術が重要ではないという意味ではありません。元になる音の質や発声が優れていなければ、編集してもあの独特な説得力は出にくいでしょう。前半の『ランメルモールのルチア』を聞けば、ムラ本人のソプラノとしての力量もわかります。
現在の歌手によるカバーと映画版は同じ条件ではない
「The Diva Dance」は映画公開後、多くの歌手がライブや動画で挑戦する人気曲になりました。非常に高い技術を持つ歌手が、加工を抑えた形でかなりの部分を実演する例もあります。
ただし、カバーで歌える人が現れたからといって、映画版が無加工だったことにはなりません。演奏テンポ、アレンジ、音のつなぎ方、声域の処理などによって難易度は変化します。「誰かがライブで歌った」という事実と、「1997年の映画音源がどのように制作されたか」は分けて考える必要があります。
映画のオペラ曲を聴きたいときは何と検索すればいい?

ディーヴァの歌をもう一度聴きたい場合は、探している部分によって検索する曲名を変えると見つけやすくなります。
静かなオペラ部分を聴きたい場合
映画序盤の歌唱ではなく、フロストン・パラダイスのステージでディーヴァが最初にゆっくり歌う部分を探しているなら、「Inva Mula Lucia di Lammermoor」または「Inva Mula Il dolce suono」で探すと見つけやすいです。
原典のオペラそのものを聴き比べたい場合は、「Lucia di Lammermoor Mad Scene」や「ルチア 狂乱の場」と検索すると、別の有名ソプラノによる演奏も見つかります。映画版が原曲をどのように利用しているのか比較すると、より違いがわかります。
高速で電子的な部分を聴きたい場合
「アアアア」と高速で音程が変化し、リールーの戦闘シーンと重なる部分を探しているなら、曲名は「The Diva Dance」です。
「Eric Serra The Diva Dance Inva Mula」と検索すれば、同名のカバー曲との混同を避けやすくなります。配信サービスによっては「The Diva Dance (feat. Inva Mula)」のように表記されています。
映画の流れに近い形で聴くなら2曲を続ける
「自分が覚えている曲と検索したDiva Danceが少し違う」と感じる場合、映画では前半の『ランメルモールのルチア』から後半の「The Diva Dance」までを一続きのパフォーマンスとして見ていることが原因かもしれません。
サウンドトラックでは「Lucia di Lammermoor」と「The Diva Dance」が分かれているため、両方を続けて聴くと映画の記憶に近くなります。
フィフス・エレメントのディーヴァについてよくある疑問

歌手と女優、既存のオペラと映画オリジナル曲が組み合わされているため、このシーンには混同しやすい点がいくつかあります。特に多い疑問を整理します。
青い宇宙人の女優本人が歌っている?
いいえ。ディーヴァ・プラヴァラグナを画面上で演じたマイウェン・ル・ベスコと、歌唱を担当したインヴァ・ムラは別人です。
マイウェンは衣装やメイクを施してディーヴァの姿と動きを演じ、ムラの歌声が組み合わされています。そのため映画を普通に見ただけでは、別の歌手が声を担当していることに気づきにくいでしょう。
「The Diva Dance」は本当のオペラ?
一般的には「フィフス・エレメントのオペラ」と呼ばれることが多いものの、「The Diva Dance」そのものは19世紀から存在するオペラ作品ではありません。映画用にエリック・セラが作曲した楽曲です。
ただし、その直前には本物のオペラ『ランメルモールのルチア』が使われ、ソプラノの技巧を生かした声楽表現も引き継がれています。そのため、クラシック・オペラと電子音楽を融合した楽曲として捉えるとわかりやすいでしょう。
「Diva Dance」に歌詞はある?
前半の『ランメルモールのルチア』にはイタリア語の歌詞があります。一方、「The Diva Dance」の高速なボーカル部分は、通常の歌のように文章を伝えることが目的ではなく、声そのものを楽器のように扱ったヴォカリーズ的な表現が中心です。
そのため「Diva Danceの歌詞を知りたい」と探しても、一般的なポップソングのような歌詞全文が出てこないのは不思議ではありません。映画では、言葉の意味よりも「異星人だからこそ可能な超人的な歌声」という音響効果が重要になっています。
前半のオペラにも意味がある?
『ランメルモールのルチア』の「狂乱の場」は、精神的に追い詰められたヒロインが現実と幻想の境界を失っていく非常に劇的な場面です。美しい旋律でありながら、物語そのものは悲劇的です。
『フィフス・エレメント』でも、ディーヴァの優雅な歌唱と同時に周囲では危険な状況が進行しています。静かな美しさから激しいアクションへ変化していく映像と、「狂乱の場」から「The Diva Dance」へ変わる音楽が連動しています。
単に有名な高音のオペラ曲を使っただけでなく、美と危機、優雅さと暴力という対照を一つのシーンにまとめる役割を果たしている点も、この場面が長く記憶される理由の一つと考えられます。
フィフス・エレメントのオペラを歌っているのはインヴァ・ムラ
『フィフス・エレメント』で青いディーヴァが歌うオペラの声を担当しているのは、アルバニア出身のソプラノ歌手インヴァ・ムラです。画面上のディーヴァ・プラヴァラグナを演じたマイウェン・ル・ベスコとは別人です。
曲は一つではなく、前半がドニゼッティのオペラ『ランメルモールのルチア』の「狂乱の場」、後半がエリック・セラ作曲の「The Diva Dance」です。映画では両者が連続しているため、一つの曲として記憶している人も多いでしょう。
「The Diva Dance」の驚異的なボーカルはインヴァ・ムラの実際の声が基本ですが、人間では連続して再現しにくい高速な音程移動などにはサンプリングと編集が使われています。本格的なオペラ歌手の歌唱力と音響加工を組み合わせることで、初めて「人間ではない歌姫」の声が完成したと考えると、この名場面の仕組みがよくわかります。



